第3回 JAPAN PODCAST AWARDS 選考員 | JAPAN PODCAST AWARDS ジャパンポッドキャストアワード
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既存エンタメ・メディアの先入観に囚われず、音声メディアの可能性や課題に関し、スマートかつビビットな視点で言及・選考ができる感性を持つ方に、選考委員をお願いしています。
石井 玄
株式会社ニッポン放送 エンターテインメント開発部 プロデューサー
1986年、埼玉県生まれ。明治大学政治経済学部卒業後、東放学園専門学校を経て、2011年にサウンドマン(現・ミックスゾーン)入社し主に深夜ラジオ番組の制作を担当。2020年ニッポン放送入社。イベントやグッズなど、様々なエンタメ・コンテンツのプロデュースを担当している。2021年9月初のエッセイ「アフタートーク」を刊行。
大賞
1. ハイパーハードボイルドグルメリポート no vision
今まで聴いたことがない音声コンテンツです。初めて聴いた時、衝撃を受けました。この発想はできないし、もしできたとしても実行できないです。文句なく現在のNo.1だと思います。経験したことのない音声体験なので、是非多くの人に聴いていただきたいです。制作者の信念と努力を随所に感じられて、ジャンルは違えど、非常に刺激になりました。 パーソナリティは存在しない。強いて言えば、日本の社会全体、そして聴き手であるはずの自分自身だと思います。
2. 奇奇怪怪明解辞典
二人のトーンが心地よいです。内容も共感を呼ぶものが多く、聴いていて嫌な気分にならないです。
ポッドキャストとしての利点である、表現の自由さと許容する範囲の広さを遺憾なく発揮していて、地上波ラジオとの差異をしっかりと感じました。
3. BUSINESS WARS / ビジネスウォーズ
春風亭一之輔師匠の心地よい語り口と音使いによって終始退屈させないようにできています。物語を想像しながら聴くと時間を忘れて楽しめます。学びもあり、音として楽しめる、ポッドキャストの代表例のような作品だと思います。途中ブレイクがなければもっと没入できるので、その点で、3位とさせていただきました。
総評:
JAPAN PODCAST AWARDSには一回目から携わらせていただいておりますが、毎年格段にレベルが上がっていることに、音声メディアの盛り上がりを感じています。前回は放送局の本格参入がありましたが、今回はAmazon、Spotifyのような放送局とは別のプラットフォームのコンテンツが増えました。テレビ東京のような映像を制作するクリエイターもポッドキャストを制作するような盛り上がりを見せて嬉しい反面、ラジオ局の人間としては焦りも感じます。ノミネートに間に合わなかったですが、Amazonオーディブルのポッドキャストは昨年暮れからポッドキャストを多数発表していて、今まさに群雄割拠、百花繚乱のポッドキャスト業界となっていると感じています。私もAmazonオーディブルで「佐藤と若林の3600」「HIDEO KOJIMA’S RADIOVERSE」「オークラ 質問のコメディ」などのポッドキャストの制作を始めていて、来年のアワードに参加したい気持ちに駆られています。(選考員の関わるポッドキャストは選考外だそうです)
とにかく、ポッドキャスト・ラジオを含めた音声メディアの盛り上がりを実感できて、本当に嬉しい気持ちでいっぱいです。これから面白い音声コンテンツがもっと増えるように、リスナーとして聴きながら、自分でもポッドキャストを制作していきたいです。
ベスト パーソナリティ賞
1. 奇奇怪怪明解辞典
2. ゲイと女の5点ラジオ
3. 月曜トッキンマッシュ
総評:
パーソリティ部門は、そのパーソナリティが魅力的に感じるかで選考させていただきました。
1位の「奇奇怪怪明解辞典」
二人の関係性の良さが滲み出ていて、聴いていて楽しいです。ミュージシャンという立場ではありますが、庶民的で親しみやすく、言葉に嘘がない印象を受けました。ああ、この二人と友達になりたいな、と思わせてくれるところにパーソナリティとしての魅力を感じます。
2位の「ゲイと女の5点ラジオ」
顔もわからなく、聴いただけですが、好きになりました。一緒に飲みに行ったら超楽しそうです。そう思わせることが、パーソナリティとしての魅力だと思います。
3位の「月曜トッキンマッシュ」
声がいいです。面白そうに聞こえる声です。全く知らない人だけど、好感がもてて、仲が良いことが伝わってきて。プロの喋り手が増えてきている中で、これぞポッドキャストのパーソナリティという感じが良いです。楽しそうでポッドキャストが好きなことも伝わりました。
ベスト エンタメ賞
1. ハイパーハードボイルドグルメリポート no vision
2. BUSINESS WARS / ビジネスウォーズ
3. あなたから聴く物語
総評:
1位と2位は大賞で言及していますので、割愛します。
エンタメ性も優れた2作品だと思います。
3位の「あなたから聴く物語」
物語が電話音声のみで構成される斬新で実験的な内容ですが、構成が巧みで、短い時間で想像できることができます。一話が短いので、一気に聴くことも可能。地上波ラジオで実施しにくい企画ですが、ポッドキャストであれば、配信時間を自由に設定できる優位性も活かされています。あと、ビジュアル(イラスト)がポップでかわいいです。
ベスト コメディ賞
1. 真空ジェシカのラジオ父ちゃん
2. 83 Lightning Catapult
3. 蛙亭のトノサマラジオ
総評:
ノミネート作品全て面白いので選ぶのが難しかったです。
面白さで選んだというよりはただただ好きなのを選びました。
1位の「真空ジェシカのラジオ父ちゃん」
冒頭のつかみでもっていかれました。面白くてその部分だけ全部の回聴きました。そういう聞き方ができるのもポッドキャストの魅力だと思います。そこだけのまとめ作ってほしいです。
2位の「83 Lightning Catapult」
地上波で長くパーソリティを務めているお二人だけあって安定感が抜群です。心なしか地上波よりも、のびのびやってる気がしました。構成作家の福田さんとのコンビネーションも良くて常に聴いていられる番組だと思います。それぞれディレクターとして担当をしていたお二人の番組ですが、客観的に聴いて面白いと思います。ソリティを務めているお二人だけあって安定感が抜群です。心なしか地上波よりも、のびのびやってる気がしました。構成作家の福田さんとのコンビネーションも良くて常に聴いていられる番組だと思います。それぞれディレクター担当をしていたお二人の番組ですが、客観的に聴いて面白いと思います。
3位の「オールナイトニッポンPODCAST 蛙亭のトノサマラジオ」
お二人の声のコントラストが良いです。中野さんは何言っても面白く聴こえる声で、大きい声を出すだけで笑ってしまいます。イワクラさんの独特な視点からのトークも聴けば聴くほどクセになると思います。
奥森 皐月
女優/モデル/タレント
2004年生まれ、東京都出身。タレント。お笑い好きを活かしカルチャー誌のサイトでコラム連載も執筆。テレ朝動画logirlにて冠番組「奥森皐月の公私混同」好評配信中。NHK Eテレ「すイエんサー」、「にほんごであそぼ」出演中。多彩な趣味の中でも特にお笑い好きで、毎月150本のネタを鑑賞、毎週30時間程度のラジオ番組を愛聴している。
大賞
1. ゆる言語学ラジオ
取っ付き難いテーマをエンタメとして手軽に楽しめます。紹介されている書籍を読みたくさせる、魅力的な話し方と分かりやすい解説でとてもおもしろいです。
2. BUSINESS WARS /ビジネスウォーズ
サクセスストーリーがどれもドラマチックで聴き応えがあります。春風亭一之輔さんの声が耳心地よく、展開には緊迫感があるので次々と聴きたくなりました。
3. 奇奇怪怪明解辞典
真面目なテーマからどうでもいいことまで、興味関心の幅が広い二人。1つの話題に対し音楽からアプローチして考える場面の独自性が魅力的でした。
総評:
Podcastらしさのある、専門性とユーモアが詰め込まれた作品が多く、聴いていてとても楽しいです。
上位の作品は特に、今後も引き続き聴きたいと思いました。今まで出会えていなかったのが悔しいくらいです。過去のエピソードを遡って聴くことに決めました。
ゆる言語学ラジオ「ピダハン」の回は、未知の異文化と遭遇するワクワク感が最高でした。常識や当たり前を覆すような考え方を、きちんと噛み砕きながら受け入れる姿勢が素敵です。
「BUSINESS WARS /ビジネスウォーズ」の作品のスタイルは新しさがあり、各のエピソードの聴きごたえがすさまじい。1つ聴き始めたらすぐに続きが聴きたくなる、やみつきになる作品です。
氷川きよしさんの素の部分や考え方が垣間見える「氷川きよし kiiのおかえりごはん」もおもしろかったです。料理とラジオの相性があまり良くないのではないかと思っていましたが、聴いていて楽しめる番組になっていました。
ベスト パーソナリティ賞
1. 叶姉妹のファビュラスワールド
2. ゲイと女の5点ラジオ
3. 奇奇怪怪明解辞典
総評:
「叶姉妹のファビュラスワールド」は、叶姉妹さんの魅力・優しさ・強さが詰まっていて本当に素晴らしいです。お便りに対する真摯な向き合い方、的確な指摘、リスナーに新しい価値観を見出してくれるバイタリティー。どこを取っても唯一無二で、最高としか言いようがありません。
「ゲイと女の5点ラジオ」のパーソナリティお二人は、確固たる考えや生きるスタイルがあるようで素敵だと思いました。しかし、自分の考えをすべてにせず「偏見」と「意見」を区別してお話されているように感じます。本質的な多様性を具現しているような、よい組み合わせの二人のトークはとても聴きごたえがありました。
ノミネートにあった「月曜マッキントッシュ」も、パーソナリティお二人の息の合った掛け合い、トークが聴き心地がよく、とてもおもしろかったです。
視覚情報がないからこそ見えてくる、パーソナリティの思考や生き様。それがよく伝わり魅力に感じた作品を選びました。
ベスト エンタメ賞
1. ロバートpresents聴くコント番組〜続・秋山第一ビルヂング〜
2. BUSINESS WARS / ビジネスウォーズ
3. あなたから聴く物語
総評:
ロバートの聴くコント番組。視覚的な面白さを奪われると、魅力が半減するのではないかと思った私が大間違いでした。音声だけだからこそ、その創造性と破壊力の凄まじさが増幅しています。新たなお笑いの世界を提示されているようで、圧倒的なおもしろさを感じます。エピソードがまるまる一つのコントになっている、という部分も今までにあまり聴いたことがなかったので感動しました。
「BUSINESS WARS/ビジネスウォーズ」エピソード一つの情報量が多いですが、それを音声としてわかりやすくまとめ、きちんとエンタメに昇華されていて楽しいです。映像媒体で見て楽しむのとは違うであろうおもしろさがあると感じました。
「あなたから聴く物語」は雰囲気のドラマチックさとおもしろおかしい内容のギャップが良かったです。音声媒体の強みをきちんと活かした劇的な演出が施されているのに、1話が5分足らずで終わるというまとまりに魅力を感じました。
情景を視覚的に伝えられないという弱みをむしろ強みに活かしている作品こそが、Podcastにおける優れたエンターテインメントなのだと感じ選考しました。
ベスト コメディ賞
1. 真空ジェシカのラジオ父ちゃん
2. 83 Lightning Catapult
3. 蛙亭のトノサマラジオ
総評:
「真空ジェシカのラジオ父ちゃん」は、他のお笑いラジオとは少し違った空気を纏い、真空ジェシカのカラーが色濃く現れたお笑いでとてもおもしろいです。メールに対するリアクションも、独自性に溢れていてラジオ父ちゃんでしか味わえない魅力があります。リスナーから募集していて、毎週送られてくるジングルも秀逸で素晴らしいです。
「83 Lightning Catapult」のゆるさと同級生としての距離感はラジオ好きにはたまらないものがあります。相田さんと酒井さんの良さが双方に引き出されていて、コンビネーションの良さが聴いていて楽しいです。長年ラジオ〜パーソナリティをされているお二人なだけあり、メール読みとリアクションの安定感も心地いい。
「蛙亭のトノサマラジオ」は、とにかくトークがおもしろいです。岩倉さんと中野さんの人間性がよく伝わってくる上、お二人のキャラクターの違いによる掛け合いが最高。つい笑ってしまう話ばかりで、一度聴くと毎週聴きたくなるような魅力を感じます。
コメディ番組の中にもおもしろさの中にある聴き心地の良さや、パーソナリティの魅力、独自性など、様々な要素があり、それらが調和されている作品が優れているのではないかと感じました。
佐久間 宣行
テレビプロデューサー
1999年テレビ東京に入社。『TVチャンピオン』などで経験を積みながら、入社3年目に異例の早さでプロデューサーとして抜擢される。『ゴッドタン』のプロデュース・総合演出をつとめるほか、『ピラメキーノ』『キングちゃん』『ウレロ☆未確認少女』『有吉のバカだけどニュースはじめました』テレビ東京開局50周年記念企画『トーキョーライブ24時〜ジャニーズが生で悩み解決できるの!?』などのプロデュースを担当。2021年3月にテレビ東京を退社後、フリーランスとして活躍。
大賞
1. 氷川きよし kiiのおかえりごはん
ごはんづくりの形を借りた、自分語りとてつもなくいい。終始心の開かれたヴァイブスに泣きそうになる。
2. ハイパーハードボイルドグルメリポート no vision
音声だけのほうが取材ハードルが下がるという利点を最大限活かしている。
3. BUSINESS WARS / ビジネスウォーズ
単純にドキュメントとして面白い演者・音楽・演出ともクオリティが高い
総評:
どれもとても面白かったです。
バラエティに富んでいて、Podcast文化の成熟も感じました。
その中で、氷川きよしさんの番組は、ハッキリ覚悟と人生があって、しかも開かれた魅力もある。
声の魅力と相まって、聞いていて胸が熱くなった。
ベスト パーソナリティ賞
1. ゲイと女の5点ラジオ
2. 叶姉妹のファビュラスワールド
3. 超相対性理論
総評:
「叶姉妹のファビュラスワールド」は、叶姉妹の2人が質問に対してめちゃくちゃ誠実、その上でキャラクターとしての笑いもある素晴らしい番組だと思いました。
けれど、ここで初めて知った「ゲイと女の5点ラジオ」の魅力にやられました。
会話のテンポと悪口のセンスがすごくいいですね。面白い。
しかも、そこにちゃんと社会への怒りと問題提起もある。
とても素敵でした。
ベスト エンタメ賞
1. ハイパーハードボイルドグルメリポート no vision
2. あなたから聴く物語
3. BUSINESS WARS / ビジネスウォーズ
総評:
「あなたから聴く物語」は童話のツッコミどころを笑いにするだけでなく、価値観の分断と決めつけという今日的なテーマに消化できていると思う。ただ、アプリで映像付きのほうが世界観も含め完成度が高く感じてしまった。
そのなかで、ハイパーハードボイルドは、音声のみだからできる取材、というアプローチが非常に面白いと思う。しかしこれも、過去に上出ディレクターが作った映像版のほうが、圧倒的に面白いと感じてしまったのは事実だ。
ベスト コメディ賞
1. 83 Lightning Catapult
2. 蛙亭のトノサマラジオ
3. ラランドの声溜めラジオ
総評:
これが一番難しかったです。
若手のドキュメント感もとても魅力的でしたが、この番組じゃないとだめ、までは消化できてない感じがしました。たくさん露出してますし。
その中でやはり、「83 Lightning Catapult」の2人には音声メディアへの一日の長がありました。
遊び方が非常にうまいですし、カリスマ性もありますね。彼らがやっているラジオとは違う顔をちゃんと出せているので、スタッフワークも含めすごくいいと思います。
櫻本 真理
cotree/CoachEd CEO
1982年生まれ。京都大学教育学部卒業。モルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックス(株式アナリスト)を経て、2014年にオンラインカウンセリングサービスを提供する株式会社cotree、2020年にリーダー層向けコーチングプログラムを提供する株式会社コーチェットを設立し、両者の代表取締役を勤める。ウーマン・オブ・ザ・イヤー2022心の揺らぎサポート賞受賞。
大賞
1. ハイパーハードボイルドグルメリポート
聴いたことのなかったリアルな「声」と「生き方」がすぐ隣に感じられて、世界の見え方が変わっていく感覚があり、聴き流すことを難しく感じました。
2. 奇奇怪怪明解事典
軽快な語りの中に、豊かな受容と鋭い投げかけが溢れて広がって重なっていく様子が心地よかったです。笑いもあり、心がゆるむ感覚がありました。
3. BUSINESS WARS / ビジネスウォーズ
映画を見ているかのような臨場感と、「よそいきの世界」の今まで見えていなかった裏側を垣間見るような高揚感がありました。もっとたくさんの作品をお聞きしたいなと感じました。
総評:
どの作品も単に「文字で読むかわりに耳で聴く」「映像の劣化版として耳で聴く」ということとはかけ離れた、音でなければ伝わらない質感やテンポが際立ったものばかりでした。
聴いていて心地よいだけでなく、自分の世界を少しずつ拡張してくれるような体験をさせていただき、感情を揺さぶられることも多く、音の作品の可能性と進化を感じました。出会えたことに感謝の気持ちが芽生える作品ばかりで、耳から聴く体験の豊かさに改めて気付かされました。
ベスト パーソナリティ賞
1. 叶姉妹のファビュラスワールド
2. 奇奇怪怪明解辞典
3. 超相対性理論
総評:
パーソナリティ自身の個性が魅力としてひとつひとつの作品に現れており、ずっと聴いていると脳内に「このパーソナリティならこう言うのではないか」という妄想が膨らむような、お人柄と語り口に一貫性のある点が素晴らしく、安心して委ねられるという意味での信頼感がある作品が多かったです。
ベスト ナレッジ賞
1. a scope ~リベラルアーツで世界を視る目が変わる ~
2. ゆる言語学ラジオ
3. DOMMUNE RADIOPEDIA
総評:
近寄りがたい分野に関する知恵をとても身近に感じられ、具体的な事象とそこから生まれる学びとの行ったり来たりが楽しくなるような作品ばかりでした。どの作品も問いの切り口が豊かで、対話によってさらに知恵が深まっていくことにワクワクしながら聴かせていただきました。
ベスト ウェルビーイング賞
1. 山あり谷あり放送室
2. ホントのコイズミさん
3. Temple Morning Radio
総評:
ほかのジャンルの作品では、どれほど感情が動いたか・どれだけ世界が広がったか、という観点からお聴きすることが多かったのですが、このジャンルでは、むしろ話の内容や言葉選び・声のトーンによって、「エネルギーが落ち着くもの」「大切なものが浮かび上がってくるようなもの」を選ばせていただきました。少し自分と離れることができ、呼吸が深まるような作品が多かったように感じます。
竹中 直純
プログラマ/起業家
1968年福井県敦賀市生まれ。90年代前半のインターネット黎明期からさまざまなサービスを企画、設計、開発するプログラマ、起業家。現在は技術開発を本業とするディジティ・ミニミ社をベースに、OTOTOY、BCCKS、未来検索ブラジル社でいずれもプラットフォームサービスを運営しつつ各種開発も手掛ける。砂原良徳、國崎晋と共に音楽を楽しむ環境を見直すPodcast番組"Operation Sound Recovery"のホストも務める。
大賞
1. ゆる言語学ラジオ
楽しそうにしゃべる二人(Mr.Horimoto含)の興味が聴き手の頭にするすると流れ込んでくるような感覚がある。「た」の分析など、普段使っている母国語に唸るような発見があり頭が掻き回される。
2. 奇奇怪怪明解辞典
名前のついてない行為に名前をつける流れがTITAN氏の独特な言語感覚で独特のスリルを産んでいる。途中のエピソード(ep.27?)からBGMがなくなる必然感。
3. BUSINESS WARS / ビジネスウォーズ
専門的な知識や用語についても臆することなく説明し切る聴取者を信じる作りが好ましい。仮に解らない事があっても調べたくなる。
総評:
今回の大賞については、どちらかというと知的好奇心を刺激されて頭が学習モードに切り替わり、内容を頭に詰め込まれるようなノミニーばかりで、ひとつだけ「kiiのおかえりごはん」だけがモードが異なるものでした。そんなわけでとても悩んだのですが、結果としては如何に中長期的にリスナーが知的な拡張を味わえるか、を観点に選んだことになると思います。Podcastはラジオ番組に例えられることの多い状況の中で、このような高密度な番組がもし昔のようにアーカイヴにならず一期一会なら、やたら難しい内容だったという印象のみが残るだけなのかもしれないのですが、今はradikoも含めて何回でも番組を聴き直す環境があり、その環境を前提に番組を作る事ができるため、我々はこんなに上質な思考や言説に何度でも触れる事ができる幸せを噛み締めています。Podcastはそのような点で書籍と同じような知の蓄積の側面を持つに至っていると強く思います。
ベスト パーソナリティ賞
1. ゲイと女の5点ラジオ
2. 超相対性理論
3. 叶姉妹のファビュラスワールド
総評:
パーソナリティの魅力とは何かを考えた末、主にテレビで培われたフォーマットの形式美とラジオの緩さのようなコントラストが話し手の心理状態に大きな影響を与えているということに気づきました。そして口上がある、区切りにSEを使っているなどといった番組の詳細な形式よりも、結局聴いている人たちについてどこまで想像ができケアできているかということが基準になると気づき、そのようなつもりで選出しています。
「ゲイと女の5点ラジオ」はパーソナリティの二人がいろんな悩みを最終的には楽しさに変換する技能がすごい。いや技能といっていいのかな…なんなんだろう。声音とかリズムみたいなことなのか、適度な湿度感と引き出しの開き方が好ましいのかな。あと、冒頭にクライマックス(?)の音声を持ってくる形式は最後まで聴かせる手法として特に有効だと思いました。
「超相対性理論」はパーソナリティが三名とも同世代で話題に関する共感や気づきが生々しく伝わってきます。さらに良い悪いの観点を排除して徹底的に目の前にあることを抽象化していく過程を順を追って見せてくれるので、まるで目の前に三人がいて聴いている側も同席して質問、会話したくなるような感覚に陥ることがあります。これはリスナー側へのケアを超越してリスナーとパーソナリティを同化させているということかもしれず、パーソナリティとしては大成功なんだと思います。
「叶姉妹のファビュラスワールド」はどこを切り取っても叶姉妹を堪能でき、「叶姉妹」という様式美を堪能できるのだけど、時々ふいにそのフォーメーションが崩れることがあって、そこに素の二人が見えるので、(25時代に存在を知って23年になる)叶姉妹に初めて親しみを感じられるようになったという点で画期的な番組。
ベスト ナレッジ賞
1. a scope ~リベラルアーツで世界を視る目が変わる ~
2. NIKE LAB RADIO
3. DOMMUNE RADIOPEDIA
総評:
KNOWLEDGE(教養)と言われた時に個人的に感じるのはその言葉が示す範囲の広さで、そのような意味で内容の深さというよりは広さを優先して考えました。また聴く方もそこそこ覚醒しているという前提で受け取り方、聞こえ方の順番を決めています。
「a scope」はタイトル通り、リベラルアーツを通して見える範囲を広げていくことが目的の番組で、考えを段階を踏んで次々と抽象化していき、必要に応じて具象に降りるという高度な知的活動のひとつの手本としてとても興味深く聴きました。いみじくも別部門のウェルビーイング文脈で語られるような仏教への言及があったり、知の構造に対する考察があったり、など深掘りし甲斐のある話題がどんどん出てきて参加したくなります。
「NIKE LAB RADIO」は話し手が入れ替わることで知識の幅を広げるアプローチをとっていて、この形式であれば無限に面白い話を継続できて、かつ何を選ぶかについてNIKEの目利きがあるということがブランドを好きな人にとって心地よいものになっていて、そこにとても良い意味での安定感を感じて選出しました。渋谷の歴史のような内容は(渋谷在住の僕が周辺から聞いた話が補強されて)とても面白かったのですが、例えば同じような観点で(オリンピックつながりで)長野の歴史に置き換わったエピソードがあったとするとどういうふうに聞こえるのかが気になりました。
「DOMMUNE RADIOPEDIA」は広さというより深さが印象に残る内容なのですがエピソードが多様でパーソナリティも多岐に渡り、かつリファレンス付きの知識をもとに感情を含む評論が展開されるので、知的満足度は高いです。けど、全部長いんですよね。それが3位の理由です。
ベスト ウェルビーイング賞
1. ウェルビーイング〜旅する博士と落語するアナウンサー〜
2. 山あり谷あり放送室
3. Temple Morning Radio
総評:
ウェルビーイングは定義によって揺らぎやすい言葉で、文脈上の意味を読み取ってからじゃないと判断がなかなか難しいのですが、このア
ポッドキャストとしての利点である、表現の自由さと許容する範囲の広さを遺憾なく発揮していて、地上波ラジオとの差異をしっかりと感じました。
とにかく、ポッドキャスト・ラジオを含めた音声メディアの盛り上がりを実感できて、本当に嬉しい気持ちでいっぱいです。これから面白い音声コンテンツがもっと増えるように、リスナーとして聴きながら、自分でもポッドキャストを制作していきたいです。